「不法侵入ばっちりだな」
「だろ? オレもそう思ったんだよ。けど口は利かなくても知らない人間じゃないから、傘でも貸したら帰ってくれるかな、と、考えていた」
後は全てを彼の表情が語っていた。
東雲はアドバイスをする気にもならず、全くなごみもせずにこの話題が終わるのを待った。
彼の様子がおかしいということは会社で噂になるのは早かった。
最初は人の顔を見るや、れいの顔でじめっと、なまぬるくほほえむだけだったが、次第にひとつの兆候が現れ始めた。
彼は腰に手を当て、老人くさくぶつくさ言って回るようになった。
東雲が心配して部屋を訪ねると堀田はいない。
そこにはれいの老婆がいて、にこにこして迎え入れてくれた。



