「ただいま。ばあちゃん、腹減った」
 玄関の扉を思い切り開き、その勢いのまま扉は閉まる。家中にキーッ、バタンという豪快な音が響き渡る。
 僕が学校を後にして向かったのは、自宅ではない。そこから百メートルも離れていない、祖父母の家だった。
「おうっ光彦、今日もさぼりか?」
 豪快な笑い声と共に迎えてくれたのは祖父だ。
「親には内緒にしてよ。じいちゃん、口が軽いから」
 分かったわかった、そう言って祖父はさらに大きな笑い声を上げた。
 両親は厳しい。塾をさぼっていることがばれれば、ただでは済まされない。だが祖父母は違う。幼い頃に戦争を経験した彼らは、口癖のように繰り返した、
「わしらが幼かった時分は、自由に遊ぶこともできず、毎日国のために働かされた。子供は遊ぶことが仕事じゃ。わしらの分まで、今の子たちは遊べばいい。悲しい歴史を、繰り返さないためにも」
 と。
 両親とは百八十度異なる見解だ。ゆえに両親と祖父母の仲は最悪だった。