キンコーンカーンコーン。
 終業の鐘が鳴った。これで晴れて自由の身だ。両腕を思い切り突き上げ、固まった筋を伸ばした僕は、空っぽの鞄を掴み立ち上がった。
「おい光彦、今日こそ来いよ」
 借金取りのような声の主は、親友の剛だ。
「あー、今日はパス」
「お前、先週も一回しか来てないだろ。俺たちも来年は受験だぞ。そんなんじゃ、ろくな大学行けないからな」
 うるさい奴だ。親でも教師でもない奴にまで、そんなことを言われたくない。
「分かっているさ、それくらい。俺は俺のペースで頑張るの」
「お前がどうなろうが勝手だけどな、こんなしょっちゅう休んでいたら、さすがに親にばれるぞ」
「ばれて結構、ごけっこうこー。塾なんて無駄だと気付いて、その分小遣いに回してもらいますよ」
 剛はため息交じりに、この親不孝者が、と呟いた。
 僕の通う学校は、いわゆる進学校という類のそれだった。高校二年生の冬休みを目の前にした今、周りは受験勉強に全ての情熱を注いでいる。
 もちろん、全ての生徒がそうとは限らない。早くも脱落路線を歩み始める者もいる。そういう僕も、その中の一人だ。