「どうしたんだよ、急に。しかもこんな時間に」
壁の時計は、もうすぐ夜の十一時を指そうとしている。
「最近連絡しても繋がらないから、心配で……」
そう呟いた雪菜の胸には、大きな封筒が抱えられていた。仕事帰りなのだろう。
「会社のことは知っているだろ? 忙しかったんだ」
忙しかった、それは事実だ。だがそれだけではない。
「そう、だよね……。上がって、いい?」
ここで断るわけにもいかない。紛いなりにも、彼女なのだ。俺は仕方なく、客用のスリッパを出した。
「……会社、辞めるの?」
リビングに入った雪菜は、テーブルの上を見つめながら呟いた。その言葉のニュアンスには、非難の意が込められていた。



