茫然と虚空を眺めていた俺を現実に引き戻したのは、一本の電話だった。
「もしもし、真哉さん?」
梨花ちゃん……、俺は声を振り絞った。
「よかった。昨日から連絡がなかったから」
ごめん、そう呟くと、しばしの沈黙が流れた。梨花の要件は分かっていた。会社のことだ。この沈黙がそれを裏付けている。
「……今ニュースになっている、○○会社の個人情報漏洩ってもしかして……真哉さんの勤める、会社?」
声に出さずに頷いた。
「そっか……。ごめんなさい、そんな大変なときに」
俺はその日初めて聞く労いの言葉に、再度涙が頬をつたった。
「明日、店に行ってもいいかな? どうしても会いたいんだ」
俺の懇願するような申し出に、しばしの沈黙が流れた。



