Time is gone

 俺たち営業部隊は、一日中会社で待機となった。一日だけではない、当分はそうなる。マスコミから今回の事件が報道され、のこのことインターホンを鳴らした日には、火に油、いや、原子炉にプルトニウムを投入するようなものだ。
 これからは既存契約者への電話応対、謝罪謝罪謝罪謝罪謝罪……。そして騒ぎに便乗した野次馬への対応に追われる日々となる。インセンティブ、そんな呑気なことは言っていられない。基本給の減額、最悪、会社の存続すら危ぶまれる事態なのだ。
 たった一人の社員の小金稼ぎのために、桃源郷は理想郷となって消えた。
 俺は梨花からのメールを見つめていた。
 相談したい、愚痴りたい、助けを求めたい。
 だがそれはできない。女、それもクラブで働く女に、そんなことは言えない。それは弱さを見せられない、という意味ではない。それもあるが、他の客に喋りかねないからだ。そしてそのときは、豪華な尾びれや背びれに彩られている。
 信用していないわけではないが、できるほどの仲でもない。何よりこのことはまだ、社外秘なのだ。その日、俺がメールの返信ボタンを押すことはなかった。