Time is gone

「ありがとうございます! 次は私に出させて下さい」
「じゃ、次は牛丼かラーメンだね」
 ヒドイ! そう言って頬を膨らませた梨花。その瞳は銀座のネオンよりも眩しく、どんな宝石よりも輝いていた。
「じゃ、また連絡するね。店にも行くから」
 路線の違う二人は駅で別れることとなった。送りはしない、それも一つの線引きだ。
「連絡、待っています。でも、お店にはそんなに……」
 伏し目がちに俯いた梨花に対し、俺は慌てて口を開いた。
「ごめん、迷惑だったかな? だとしたら……」
「そうじゃありません! お店だと、お金がかかるから。そんな無理して、もらいたくないんです」
 梨花ちゃん……、俺は固まった。
 この世に神などいないと思っていた。だが、今目の前に女神がいる。時計が神さえも与えた。俺はこの瞬間、全てを手に入れた。
「分かった。でも、売上に困ったときはすぐに言って。俺に頼ってくれ」
「分かりました。そのときは甘えちゃいます」
 この子は俺が守る。クラブなんかで働かなくてもいいように、今以上に稼いで。学費でも家賃でも生活費でも、全部俺が出してやる。
 階段を駆け上がる梨花の背中に、俺はそう誓った。