Time is gone

　翌日から、梨花からのメールの回数は徐々に増えていった。梨花の思いが傾いてきた、そんな愚かな妄想は抱かない。一客から、見込みある客へとランクアップしただけだ。
　心理戦ならお手のものだ。俺は日々、無能な子を持つ親に対し、効果のない教材を売り付けているのだ。手順は一緒、見込み客を作り、徐々に信頼を得、クロージングにかかる。飛び込み営業で一発サインをもらえることは滅多にない。それは宝くじを当てるようなものだ。ゆっくりでいい、焦りは禁物。百戦錬磨の営業マンが、二十歳そこそこの小娘に転がされるわけがない。今に立場は逆転する。俺はそれを信じて疑わなかった。
　翌週は店に行かず、その翌週、顔を覗かせた。その翌週も店には行かず、その翌週店に行った。そしてそのときは、始めて延長もした。そろそろ第一段階のクロージングどきである、そう見極めた俺は、梨花をプライベートでの食事に誘った。
　無論、断られるはずもなかった。梨花の中で俺は、ビップ客とまではいかないが、常連にはステップアップしている。その誘いを、断るわけがない。