Time is gone

「会社一の営業マンなんて、すごいですね」
 その女はクラブというよりも、高級料亭の若女将、と言った清楚な雰囲気を醸し出していた。歌舞伎町を我が物顔で闊歩するキャバ嬢とは、一味も二味も違う。猿人と人類ほどの差があった。
 その笑顔に心奪われるまでに、時間は必要なかった。
「いや、最近調子がいいだけですよ」
「そんな謙遜しないでください。まだお若いですよね?」
「今年で、二十六かな」
「二十六歳で会社一の営業マンなんて、相当のやり手じゃないですか」
 お世辞と分かっていても、ついつい頬が緩んでしまう。美人に褒められて嬉しくない男はいない。