走った。走って走って走りまくった。新宿三丁目を過ぎ、二丁目を過ぎ、歌舞伎町のネオンの下を走り続けた。
右手にはまだ、生温かい血液がつたう感覚が残っていた。だがそれはすでに凝固し、俺の右手はカサブタに覆われているようだった。
刺す気はなかった。脅しのつもりだった。鋭利な刃物を見れば、さすがに怯むと思った。実際に真哉は一瞬怯んだ。だが次の瞬間、奴の決意は、俺の予想を越えた。
刃物とは言え、刃渡り数センチの果物ナイフだ。刺さったのも脇腹のため、確かに致命傷には至らない。だが握り手には俺の指紋がべったりと付着している。深夜の庭園で刃物を持っていたことに対し、何の言いわけができるだろうか。
「時を自由に進められる時計を奪われそうになり、揉み合っている内に刺してしまった」
などと言っても、誰も信じはしない。正当防衛など認められない。殺人未遂は免れない。



