Time is gone

「……TIG、その時計に刻まれたアルファベットの意味が分かるか?」
 真哉の問いに対し、興味ないね、と答えた。
「TIG、それはその時計を作ったメーカーか、人物の頭文字だと思っていた。俺は務所の中でその意味をひたすら考えた。そして一つの答えに辿り着いた。それは忠告だったんだ。Time is gone……時は過ぎた、というな。いくら何をどう後悔しても、時は戻らない。人はその時を、かけがえのない今を、一秒一秒生きるしかないんだ。その自然の摂理に反した者には、それ相応の報いが科せられる」
「それがどうした! 説教したいなら出家しろ!」
「いいか、伊藤雅樹。時を自由に進められるという力は、人間の能力を越え、自然の摂理すらも無視している。その力は神の領域だ。人間の手には負えない。そんな能力を手にしても、その能力に振り回されるだけだ。これ以上その被害者を出してはならない。分かったら、黙って渡せ」
 真哉は歩み寄ってきた。それに合わせて俺は、後ずさった。
「……やだね。お前の言い分はよく分かった。教訓としよう。だが俺はこの時計と共に海外に渡り、その教訓を胸に、時計を使いこなしてみせる」
 時計の恐ろしさは、言われなくても十分分かっていた。こんなものをまだ手にしているからこそ、逃亡生活を余儀なくされ、その先においても、殺人犯の男に着き纏われているのだから。
 だが素直に渡す気などない。〈三流の空き巣〉、その言葉が脳に深くふかく刻み込まれていた。それは俺のアイデンティティーを傷付けた。