Time is gone




 長い……。一分が、一秒が長い。もう何件の家のチャイムを鳴らしただろうか。そして何件断られたのか……。すでに三十軒は超えている。その内門前払いが九割、残りは玄関先で断られた。まともな営業は、まだ一件もできていない。
 時間は? 
 左手首に巻かれた腕時計を確認すると、それは十一時をさしていた。まだ一時間も経っていない。ということは、これを後六時間も繰り返すのだ。
 その絶望感に、俺は吐き気すら覚えた。実際にその場にうずくまり、吐血しそうな空咳を二・三度繰り返した。梅雨に訪れた気ままな晴天。容赦ない日差し。コンクリートの照り返しが、俺の体力と気力を奪っていく。
 よくこんなことを毎日繰り返してきた……。いや、今でも繰り返している。正に苦行だ、拷問だ。
 俺は自然と胸ポケットの中に手を突っ込んでいた。そこには時計が鎮座していた。俺を嘲笑うように、ひんやりと。