最初の内は裏方の仕事を任された。それもありがたいことだった。できることであれば、なるべく表に顔は出したくない。そうは言っても、いつまでも裏方に徹していられるはずもない。だからこそ、表に立たされる頃には、海外にトンヅラするつもりでいた。やたらと恩情に厚いママを裏切ることにはなるが、恩や情などという感情は、とうの昔に捨ててきた。裏の世界においてそれらは、自らの足を引っ張るだけの無駄な感情でしかない。
その日も俺は裏方で食器やグラスを洗い、ドリンクを作っていた。店で働き始めて二週間、誰一人としてその正体に気付く者はいなかった。カメレオンのような素晴らしい擬態能力で、その場に身を溶け込ませていた。
深夜二時、もうひと踏ん張りだ、そう気合いを入れ直したとき、突如異変を感じた。
何やら店の方が騒がしい。酔っ払いが暴れだしたのだろうか。珍しいことではない。俺が働きだしてからのこの二週間の内にも一度あった。そのときママは、珍しいことではない、と言っていた。だがどこか、そのときとは雰囲気が異なった。
まさか……。
嫌な予感がした俺は、恐る恐る店内を盗み見た。警察に居場所を突き止められ、ガサ入れに入られたのではないかと危惧したのだ。



