Time is gone



 俺は新宿二丁目で、ひっそりと営業しているオカマバーで働き始めた。金に困っていたわけではない。金ならまだ二百万近くあった。いざというときのために貯めておいた、逃亡資金だ。
 ではなぜ働き始めたのか、それは宿を確保するためだった。その店の二階は従業員用の宿舎となっており、家のない従業員のために格安で提供されていた。四畳半、トイレ風呂共同という劣悪な環境ではあったが、贅沢は言えない。あまり目立たず宿舎がある、その二点からその店を選んだ。
 逃亡生活の中で家を借りることは困難だ。そもそも長期滞在の予定がないのだから、無意味と言ってもいい。マンスリーマンションなどもあるが、住民票や身分証明書やらなにやらの提出を求められるため、それらを偽造する手間を考えると選択肢から除外される。ホテル暮らしでは出費がかさむし、「女性」がマンガ喫茶に連泊するのも不自然だ。野宿などは論外だ。ゆえに、その全てをクリアできる宿が必要だった。