一体何が起因となったのか、逃亡生活初日の晩、沼津駅近くのビジネスホテルにて、アサヒの缶ビールを片手に、警察に狙われる羽目となった原因を考えた。
そしてすぐにそれに思い至った。今も手にしている、アサヒの缶だ。
お盆の晩に忍び込んだ家で、その暑さに負けて缶ビールを一本拝借した。一本くらいならば、ばれるわけがないと高を括り……。その気の緩みが、最大の原因だった。
だがどこの誰が、そんな些細なことに気付くだろうか。いちいち冷蔵庫に缶ビールが何本入っていたかなど、記憶している人間がいるだろうか。たった一缶なくなっただけのことに気付くだろうか。一本数百万するロマネ・コンティや、そこまで高価ではなくとも、ドン・ペリニヨンならばいざ知らず、精々、一缶二百円の缶ビールの本数を……。
通常であれば考えられない。だが、あの家の家主であれば、あの潔癖症と言っても過言ではない家のありさまを思えば、ありえるのかもしれない。
一番不味かったのは、空き缶を捨ててきてしまったことだ。もちろん、指紋を残すほどのミスはしていない。だが飲み口には、たっぷりと唾液が付いていたはずだ。そこには、DNAが含まれている。



