それは単なる気紛れだった。いや、後から考えれば、気の迷いでしかなかった。その日俺は、目覚めると共に時計を手にするでもなく、出勤の準備を始めた。時を早送りする日々に飽き始め、刺激を求めていたのかもしれない。
それぞれの使命を抱え駅まで歩くサラリーマンの列。それはさながら、働き蟻や囚人のようだ。どちらも自由など存在しない。ネバーランドから追放された大人の群れ。俺自信、ついこないだまではその中の一人だった。だが今は違う。ネバーランドと現実の世界を行き来するための、永久パスを手に入れたのだ。
乗車定員を遥かにオーバーした電車。アウシュビッツ強制収容所に向かう列車のようだ。違いがあるとすれば、人々が自らの意思で飛び乗る点。行先はさほど変わらない。車内に響く冷房の音、大の大人がみんなしておしくら饅頭をしているため、効果はない。様々な体臭、ニンニクは控えるべきだ。白のワイシャツに透けるカラフルな下着、目線は吊革広告に、両腕はハンズアップ。会社に辿り着くだけで、一日のエネルギー量の内、三割は消費する。



