Time is gone



 その日、俺は浜田山にある閑静な住宅街を歩いていた。スーツを着こなし、ビジネスバックを片手に。
 江戸川区の葛西エリアは下見を含め、二ヶ月を掛けて四件盗みに入った。そろそろ場所の変え時だった。あまり一つのエリアに固執していると、それだけでリスクが高まる。
 たとえめぼしい標的があったとしても、そこは諦める。と言っても、完全に諦めるわけではない。月日を置き、ほとぼりが冷めた頃を狙って忍び込むのだ。
 その日、俺は時計の力を使わなかった。新たな猟場となるその地を、じっくりと観察したかったからだ。八月も中旬を迎えようとしたその日も、太陽は容赦なく降り注いでいた。
 俺は、住宅街を行き来するセレブマダムたちに目を光らせていた。人妻好きなわけではない。……たとえ好きであったとしても、重要な下見の最中に私情を持ち込むことはない。