Time is gone



 気が付くと、そこはボロアパートの自室だった。窓からは、今日もさんさんと太陽光が降り注いでいた。
 上手く逃げ切れたか……。
 日々、様々な町を歩き回っているだけあり、足腰は鍛えられていた。日長寝そべってばかりいる浮浪者に、捕まるはずがない。そう高を括ってはいたが、それでもどこか安堵していた。
 身形を整えた俺は、炎天下の下に足を踏み出した。向かったのは近くの都営図書館。読書家なわけではない。活字など、見ているだけで頭が回って来る。ではなぜ図書館などにやってきたのか、それは十数年前に起きた、殺人事件に関して調べるためだ。
 その記事はすぐに見つかった。それほど大々的に取り上げられていたからだ。単なる殺人事件……、と言っては語弊が生じるが、これほどまでには取り上げられない。個人情報漏洩の直後に起こった社員による殺人事件ということで、これほどまでに取り上げられたのだ。いかにも、マスコミが喜びそうなネタだ。
 その記事を読み、犯人の顔写真を見ている内に、背筋に冷たい汗がつたった。
「斎藤真哉……か」
 殺人犯と対峙し、その犯人に今、時計を、命までも狙われているという現実が、リアルな恐怖として襲いかかってきたのだ。
 当分は、あの街には近付かない方が身のためだ。時計を奪うためであれば、あいつは平気で人を殺す。そういう目をしていた。