Time is gone



「逃げないのか?」
 男の問いに、俺は笑みで返した。
「逃げるさ。殺人犯と夜のお散歩なんて気分ではないからな。ただ、少し好奇心を満たしてやりたいだけさ。殺人犯も、この時計の元所有者も、滅多にお目にかかれない」
 今度は男が笑った。
「肝は座っているようだな。お前、その筋の人間だな? 表世界で生きるへこたれ共が、殺人犯を目の前にして好奇心を満たそうとはしない。尻尾を巻いて逃げだすだけだ。差し詰め、スリ上がりのコソ泥ってとこか」
 俺は面食らった。男の視線は俺の指先を捕らえていた。
「なぜ? って顔をしているな。その指さ。よく手入れされている。身形もそれなりに気を使っているが、どんなナルシストでも、そこまで指先に気を使わない。そんな指をしているのは、ギターリストか芸能人くらいだ。だがお前は、そのどちらでもないだろ? ゆえに、スリだと思ったのさ。プロはみな、商売道具の手入れを怠らない。だが今はスリではない。その指先は、スリをやっていた頃の名残だ。手入れが習慣化しているんだろ。ではなぜ泥棒か……」
 男の視線は俺の頭部に移った。