帰りの電車の中、一人途方に暮れていた。時は夜の十一時、人込みはまばら、隣で眠るサラリーマンは、豪快な鼾をかいて眠っていた。そしてその上着のポケットからは、分厚い財布が顔を覗かせていた。俺は逡巡する間もなく、それを抜き取っていた。
次の停車駅で電車を駆け下り、トイレの個室に駆け込んだ。心臓は痛いほどに高鳴っていた。緊張感からでも、罪悪感からでもない、財布の中身にだ。
中には、二十万もの大金が入っていた。
ビギナーズラック、それは一種の麻薬だ。脳はそのときに発せられたアドレナリンによる興奮状態を記憶し、再びその歓喜を求める。金も職もないという極限状態に陥っていた俺にとって、そのときに発せられたアドレナリンの量は、通常の何倍の量でもあった。その極度の興奮状態は、俺の求めていた何かを埋めた。暴走という行為ではない、新たな手段として。
次の停車駅で電車を駆け下り、トイレの個室に駆け込んだ。心臓は痛いほどに高鳴っていた。緊張感からでも、罪悪感からでもない、財布の中身にだ。
中には、二十万もの大金が入っていた。
ビギナーズラック、それは一種の麻薬だ。脳はそのときに発せられたアドレナリンによる興奮状態を記憶し、再びその歓喜を求める。金も職もないという極限状態に陥っていた俺にとって、そのときに発せられたアドレナリンの量は、通常の何倍の量でもあった。その極度の興奮状態は、俺の求めていた何かを埋めた。暴走という行為ではない、新たな手段として。



