Time is gone

 俺は手切れ金とばかりにいくばくかの現金を渡され、家を追い出された。アパートを借りるための資金と、一ヶ月分くらいの生活費を手切れ金として……。
 悲しくなかったと言えば嘘になる。だが、ツッパリ根性がそれを認めなかった。
 生きていくために、様々な職を経験した。とび職、工場勤務、コンビニでのバイト、ティッシュ配り、日雇いのバイト……。そのどれもが長続きしなかった。それらに居場所を見つけることも、アイデンティティーを誇示することもできなかった。
 だが働かなければ飯は食えない、家賃は払えない。所持金が千円ちょっととなり、困り果てた俺は、実家に向かう列車に飛び乗った。最後の現金を使い。
 実家の門前、チャイムに指を置いたものの、それを押すことはできなかった。ツッパリ根性が、ここでも邪魔をした。つまらない意地、そう言われればそれで終わりだが、その根性だけが唯一、俺を伊藤雅樹であらしめた。