Time is gone



 俺が空き巣という犯罪に手を染めるようになった背景には、ヤンの存在があった。
 高校時代、暴走族に入っていた俺は、連夜仲間と共に深夜の街をバイクで走り回っていた。家庭環境や学校、それらに不満があったわけではない。極一般的な家庭環境に、一般的な普通高校、それらに不満を見出す方が困難だった。
 ただそこに、自らのアイデンティティーを誇示する場所はなかった。
 当時の俺が、そんな小難しいことを理解しているはずもなく、居心地の悪さ、募り行くフラストレーションを発散するために、暴走という行為を繰り返していた。
 そしてその行為により注目を集めることで、俺のアイデンティティーは満たされていった。歪んだ自己表現の方法に、陶酔していった。
 高校を卒業すると共に、俺は勘当同然で家を追い出された。何度となく警察のお世話になり、卒業を間近にしても更生の兆しもなく、進学も就職もする気のない息子に、両親は愛想を尽かしたのだ。