Time is gone

「嘘をつくな。知っているなら、なおさらよこせ」
「お前、誰だ?」
 俺は振り返り、その男をまじまじと眺めた。ボロ切れを纏い、髪の毛も髭も伸び放題。肌が真っ黒なのは、日焼けのためだけではない。そこら辺に転がっている浮浪者と変わらないが、その目だけは異なった。奴らの死んだ魚のような目ではなく、そいつの目は妙な光で満ちていた。
「俺のことはどうでもいい、黙ってその時計を渡せ。それがお前のためだ」
 ふざけるな、俺はそう吐き捨て歩き出した。
「時を自由に進められる時計、それは人を不幸にする!」
 男の声は、高架下という環境からか、エコーが掛かり何度も響いた。耳の中でモワンモワンとリフレインし、鼓膜を揺らす。俺は振り返らざる負えなかった。
「誰だ、お前は」
「俺のことはどうでもいいと言っただろ。さっさとよこせ」
「誰かも分からないで、はいそうですか、と渡すバカがいるか」
 それもそうだな、そう言って男は首で合図した。着いてこい、という意味だ。