「待て」
急に声を掛けられたのは、西新宿から歌舞伎町に向かう途中、西武新宿線駅の手前にある、高架下を歩いているときのことだった。
俺は緊張した。警官ではないか、そう思ったのだ。素早く自らの服装を思い出した。
ポロシャツにジーパン。大丈夫、ラフではあるが、決して怪しまれる服装ではない。自然に振舞えば、問題ない。
職業上、常に服装には注意していた。あまりに露骨な格好や、みすぼらしい服装をしていると、それだけで職務質問されることがある。それが致命傷となることはないが、少しでもリスクは犯したくない。もちろんそれも、ヤンからの請負だ。
俺はゆっくりと振り返った。そして再び、向き直った。
何だよ、単なる浮浪者か。いちいちビビらせやがって!
そう内心で毒づき、俺は再び歩き出した。浮浪者は、その後を追いかけてきた。



