Time is gone

 店を出た俺は、当てもなく歩いた。新宿歌舞伎町、きらめくネオンの下を。
「どうなっているんだよ、一体……。暑さで頭がいかれたのか? しっかりしろよ、俺」
 そんなことを呟きながら歩いている内に、次第に冷静さを取り戻し始めた。すると、左太腿のあたりに何か違和感を覚えた。そっとポケットの中に手を入れると、そこには丸く平べったいものが入っていた。
「……なぜ俺は、こんなものを持ち歩いているんだ」
 盗品の時計を手にし、俺は暫くの間その場に立ち尽くした。なぜ盗品の時計を持ち歩いているのか、なぜ知らぬ間に二十四時間近い時が流れていたのか、それを考えるために。
 考えて分かるようなことではない。だからこそ俺は、直感に頼った。今までそうやって生きてきたようなものだ。だが今回は、その直感を頼ることはできそうもなった。
「俺は、時を飛び越えた? まさか、そんなバカみたいな話があるか。だがどうして俺は、二十四時間近くもの間意識を失っていた? そしてこんなものを持ち歩いている……」
 売れ残った盗品を処分することはあっても、大事に持ち歩くことは考えられない。