Time is gone

 キャーッ、女の悲鳴に我に返った。そして、頭の中はパニックに陥った。
 どこだここは! 薄暗い部屋、妖艶な輝きを放つスポットライト、鼻を吐く香水の臭い……。
「どうしたのよ急に立ちあがって! 驚くじゃない」
 バカな女の喋り方、サザエの殻のように盛り上がった髪、スパンコールの輝くドレス……。
 キャバクラ? 
「オィッ、俺はどれくらい飲んだ?」
「まだ焼酎の水割りを二杯だけじゃない」
 女は不満そうに頬を膨らませた。
「その前に、どこかで飲んできた、って言っていたか?」
「二杯でもう酔っちゃったの? 可愛い」
「真剣に聞いているんだ!」
 俺の怒声に、女は表情を曇らせた。
「……言ってなかったわよ」
 酔っているわけではない。水割り二杯で酔うはずがない。ならば何が起こった。さっきまで俺は、確かに自宅にいた。落ち着け、考えろ、家に帰り着いたのが十時過ぎだ。それからビールを一本飲み、きっと焼酎か何かを飲み、酔っぱらったのだ。それで調子に乗ってキャバクラに来たのだ。では、今は何時だ。一時か。二時か。