Time is gone

 車で移動しながら取引を済ませる、これほど目立たない方法があるだろうか。いや、ない。もちろん車のナンバーも偽装されている。そして毎回、そのナンバーは異なる。電話の際、ヤンがナンバーを伝えたのはそのためだ。
 戦利品を渡すと、ヤンはさっそく吟味し始めた。彼の眼は確かだ。俺もそこそこだが、ヤンの足元にも及ばない。なぜそれだけの目を持ちながら、真っ当な道で活かせなかったのか……。
「ゼンブデ、ゴジュウ。コンカイハ、ホリダシモノバカリネ」
「五十? 六十だ。それくらいはいく」
「ゴジュウ」
 ヤンの鋭い眼孔に睨まれれば、それ以上の反論はできない。
「……分かったよ、五十でいいよ」
 内心ではクソッ、と思いつつも、決して口には出せない。顔にも、だ。いくら暑くても、東京湾で素潜りする気はない。
「ハッカケハ、モノワカリガイイネ。ビジネスハ、ソレガダイジ」
 ヤンの目は、今はもう笑っていた。