Time is gone

 俺は日中のほとんどを下見に費やした。

 約束の八時、場所は新宿靖国通り。いつもの場所には、見なれた黒のバンが停車していた。
「やぁっ、マー。相変わらず時間ぴったりだな」
 運転席にはヤンの相棒、マーの姿があった。もちろん本名は知らない。ヤンの相棒だからマーと、勝手にそう呼んでいる。二人合わせてヤンマーだ。
 無口なマーは黙ったまま、顎で後部座席を指した。早く乗れ、という意味だ。マーの声はほとんど聞いたことがない。日本語が苦手なため、自然と無口になっているのだ。
「ヤァッ、ハッカケ。アツイネ、ニホンノナツハ」
 ヤンの舌足らずな挨拶を合図に、車は走り出した。これから愉快にドライブ……、そんなわけがない。取引は車内でおこなわれるのだ。
 取引というと、人気のない港でこっそりと……、などと想像する者は、テレビの見過ぎだ。そんな暇があれば、真っ当に生きることを真剣に考えた方がいい。俺みたいになりたくなければ。