俺は着替えを済ませると、さっそく家を出た。外は容赦ない日差しが照り付け、熱せられたコンクリートからは今にも煙が立ち上ってきそうだった。
そんな酷暑の中、俺はスーツを身にまとっていた。サマースーツ、そんなものは気休めにもならない。
片手にはビジネスバックを持ち、眼鏡を掛け、欠けた前歯には差し歯がはめられていた。これから重役出勤、というわけではない。仕事は仕事だが、出勤ではない。
ではどこへ行くのか、ヤンとの待ち合わせにはまだ五時間ほどある。ヤンと会う前に、下見に向かったのだ。
空き巣とは一朝一夕で上手くいくものではない。入念な下見を繰り返し、家族構成、その行動パターンを知り、隙を見てお邪魔する。それくらいしないと、すぐに捕まってしまう。一回一回が、真剣勝負なのだ。そのため、下見はとても重要な作業となる。
服装にも意味がある。三十近い男が日中、Tシャツにジーパンでうろうろしていたらどう思われるだろうか。十年くらい前からニートという新人類が誕生したが、いい目で見られるはずがない。



