地下鉄のホームで、俺は電車がやって来るのを待った。一ヶ月前の今日、この場所で、あの時計を手に入れたのだ。
あの男は、どうしているだろうか。俺は不意に豪快な鼾を思い出した。だが、盗んだという罪悪感はなかった。
俺がこの時計を失ったとしたら……、お先真っ暗だ。想像したくもない。きっと草の根を分けてでも探すだろう。奪うような奴が現れたとしたら……、今度は窃盗罪では済まない、殺人だって犯しかねない。
それなのにあの男は、不敵な笑みさえ浮かべていた。なぜだ。まさかこの時計の能力を知らなかったのか。そんなはずがない。ならばなぜ……。
俺の思考回路は、中断を余儀なくさせられた。ホームに電車が滑り込んできたのだ。俺は無理矢理体をねじ込ませようとする人々とは対照的に、ゆっくりとベンチから立ち上がった。そして胸元のポケットから時計を取りだし、リューズを回した。わずらわしいことからは全て、時計が解放してくれる。



