Time is gone

「あの子は最後に、目を覚ましたんです」
　それを聞いた陽子は、顔を上げ、驚きの表情を浮かべた。
「あの子は自分の死を悟っていました。最後に目を覚ますことができたのは、あの時計のおかげだと言っておりました。時計が、最後に時間を与えてくれたんだと」
　そしてわしは陽子に、なぜ光彦が受験を志願したのか、十年の歳月が流れていたことを知り、なおも生きたいと訴えていたことを、語った。
「優しい、お孫さんだったんですね」
「あぁっ、本当に優しい子じゃった」
　二人はそこで黙った。見上げる空は雲一つなく、煙突からは一筋の煙が伸びていた。
「あの子は死を知りながらも、生きたいと強く願った。十年間、願い続けていたのかもしれん。あの子は、成仏できるんじゃろうか……」
　わしの問いは最後、自問自答になっていた。
「それは分かりません。私たちは、それを願うことしかできません」
　わしは頷くことしかできなかった。