Time is gone

「光彦君、元気そうでよかった。じゃ、僕らはここらでおいとましよう」
 辰雄はそう言い、景子の背に手をあて、病室を後にした。
 本来であれば、喜びを全身で表現するように抱き付き、歓喜の咆哮を上げたかったはずだ。だがそうはしなかった。それは親心であり、真の愛情からだった。目覚めたばかりの一人息子に、残酷な現実を突き付けることができるだろうか。できるはずがない。
 時計を使い十年の月日を光速で進めてきたわしは、アインシュタインの特殊相対性理論、ウラシマ効果により老いを免れてきた。ゆえに光彦はわしの姿に気が付いた。だが辰雄と景子は違う。光彦の記憶の中の二人は、十年前のそれのままなのだ。何も知らない光彦が、十歳も年老いた両親の姿に気付かなかったとしても、無理はない。今一番辛いのは、紛れもなく辰雄と景子だ。