Time is gone

「辰雄、景子さん、そのことなんじゃが……」
 わしの鬼気迫る表情に、二人は自然と姿勢を正した。
「わしを……この家に住ませてくれんか」
 辰雄と景子は顔を突き合わせ、きょとんとした表情を浮かべた。
「わしももう九十を過ぎた。いつポックリ逝ってもおかしくない。辰雄、お前ももうすぐ定年じゃ。お互い老人じゃ。年金暮らしともなれば、わしはお荷物にしかならん。それは重々承知しておる。じゃが、わしはもっと生きていたいんじゃ。死ぬのが恐いわけではない。早くばあさんのとこに逝きたい気持ちもある。じゃがそれ以上に、光彦が目覚めるそのときまで、生き長らえたいんじゃ。そのためには、もうわし一人の力では限界じゃ。老い先短い命を、さらに縮めるだけじゃ。今まで散々二人には迷惑を掛けてきた。横柄な態度もとってきた。それにも関わらず、何度も同居を申し出てくれた。今さらと思われるかもしれん。それでも恥を忍んで、頼む」
 父さん……、辰雄はそう呟き、顔を伏せた。わしの心臓は、緊張のあまり今にも口から飛び出してきそうだった。辰雄の様子を見た景子もまた、俯いてしまった。
 やはり、今さら虫がよ過ぎたのだ。