「父さんからのお誘いとは、珍しいじゃないか」
それは旅行から帰ってきた晩の、夕食の席だった。場所は息子夫婦の自宅。わしは自ら同席を願い出たのだ。こんなことは、時を進めてきた日々の中で始めてのことだった。いや、辰雄が結婚してからも、始めてだったかもしれない。
「伊豆に行って来たんでな、土産じゃ」
ぶっきら棒に温泉饅頭を手渡した。早く切り出さなければならない。分かっていても、中々その決心が付かなかった。
そうこうしている内に、時間はアッと言う間に過ぎて行った。時計の針は、すでに十時を過ぎていた。
「お義父さん、もう遅いので、今日は泊まっていってください。最近この辺も物騒なので」
景子の申し出に、わしは意を固めた。このタイミングを逃しては、一生口にできないかもしれない。



