Time is gone

「余計なお世話だとは重々承知しておりますが、息子さん夫婦と一緒に住まれてはいかがでしょうか? 今はこうして旅行などを楽しめておりますが、いつどうなるかも分からん身です。息子さんたちも、気が気ではないでしょう」
 わしに返す言葉はなかった。斎藤は、誰かに言われてこんな話を切り出したのではなく、自らの身と置き換え、あえて切り出していると分かったからだ。
「五月蝿いだの何だの言っても、彼らのおかげで私は安心して暮らしておれます。ちゃんとした飯を食え、清潔な布団で眠れます。いつそのときが来たとしても、きっと誰かしら家におり、みなを呼んでくれ、見守られながら逝けるでしょう。いくら覚悟を決めていても、一人きりで逝くのは、心許無いものです」
 脳裏に、辰雄の顔が浮かんだ。そして景子の顔が。彼らも六十を迎えた。辰雄ももうすぐ定年だ。自らの子供もまた、老人の仲間入りをする。その容赦ない現実が、斎藤の言葉が、わしの心を大きく揺さぶった。