Time is gone



 リューズを回せば回しただけ、時は過ぎて行った。カレンダーやテレビ、それらが月日の流れを確かに証明していた。だが、光彦の時は止まったまま、進みも戻りもしなかった。そしてわしの時も……。
 いくら月日が流れようとも、わしの体は老いることがなかった。とは言え、若返ったわけでもない。変化がなかったのだ。元々禿げていた頭は禿げ上がったまま、歯も総入れ歯のまま、腰や節々の痛み、肩より上に上がらない腕……。それらが悪化することはなかった。もちろん、背中が弧を描くことも。
 わしがその異常ともいえる事態に、自ら気付くはずもなかった。リューズを回し続けて早十年、九十二歳、何の変哲もない夏の午後、時を進めた先には、近所の知人、斎藤の姿があった。妻を失ってからというもの、老人会にも全く顔を出さなくなり、家に引きこもってばかりのわしを心配し、訪ねてきてくれたのだ。以前から何度も訪問しているようだが、わしにその記憶はない。不要な情報は、ことごとく消去されてきた。