Time is gone



 気が付くと、そこには見なれた光景が広がっていた。わしは時計を回す前と同じく、居間に座っていた。
 時計を回し、その先に辿り着くまでの間、頭の中には様々な光景が浮かんでは消えていった。その膨大な情報量は、正常な脳を持った人間であれば目眩を起こし、脳がショートするほどの量だ。だが、八十を過ぎたわしの脳はすでにポンコツ同然である。その情報の大半は脳に留まることなく、消去されていった。必要最低限のそれを残すだけで。ゆえに目眩を起こすことも、頭がパンクすることもなかった。
「わしは、まだ生きているのか……」
 生命の奇跡、生きているということは、わしにとっては失意、絶望でしかなかった。
 どれくらいの時が進んだのだろうか。一年か。二年か。
 その答えは、テレビから流れる相撲中継が教えた。
「名古屋、場所……。まさか、あれから二ヵ月しか経っておらんのか……」
 気が遠くなるほど、指が動かなくなるまでリューズを回しても、二ヶ月しか経っていなかった。その現実は、わしを更なる絶望へと導いた。
「わしは一体、どれだけリューズを回せば、死ねるんじゃ……」
 失意の中、わしは再びリューズを回し始めた。