Time is gone



 事情を知った店主は、時計をただで譲ってくれた。十万払うと何度言っても、最後までそれを受取ろうとはしなかった。人間誰しも、老いと共に頑固な一面が顔を覗かせる。
 最寄駅に着いたわしは、駅前のコンビニに立ち寄った。夕飯の支度をする気にはなれなかった。それでも腹だけは空く。カゴの中におにぎりや惣菜を適当に放り込み、レジへと向かった。食欲を満たすためであれば、泥団子だって構わなかった。
 レジにカゴを置いたわしの姿を見た女性店員は、目を見開き、そして穏やかな笑みを浮かべた。
 知り合いだろうか。どこかで会ったことがあるのだろうか。……見覚えはなかった。女性店員の歳は、どう見ても二十代である。接点があるわけがない。