翌日、わしは出掛ける準備をしていた。思えばここ最近、どこかへ出掛けた記憶がない。呆けたわけではなく、そんな余裕がなかったのだ。だからと言って、余裕ができたわけでもない。ただ、暗く塞ぎ込みそうな気持ちを鼓舞するために、外出しようと思い立ったのだ。
都営地下鉄に乗り込み三十分。決して老人に優しいとは言えない街、新宿。知人が趣味で営む、小さな骨董品店が目的の場所だった。
「久しぶりじゃないか源蔵さん。最近顔を見せんから、ぽっくり逝ってしまったんかと、心配していたんですよ」
相変わらず知人の店は、閑古鳥が鳴いていた。
「それはお互いさまじゃろうが」
「ヒャッヒャッヒャッ、それもそうでしたな。今日も掘り出しものばかりですよ。ゆっくり見てってください」
「よく言うわい。がらくたの山じゃろうが」
悪態を付合いながらも、少し心が温まるのを感じた。
それにしても相変わらず、がらくたばかりだ。江戸時代の伊万里焼と書かれているが、どっからどう見ても、昭和になってからの作品だ。この茶碗も皿も、どれもこれも……。
そのとき、わしの手は止まった。危うく、心臓までも止まりそうだった。



