Time is gone

「それ、呪われているんじゃねぇ? 俺さ、そういうのだけはやたらと勘が働くんだよな」
 呪い? 何を言い出すかと思えば非科学的なことを。そんなもの、この世の中に存在するはずがないでしょうが。勘じゃなくって体を働かせろ! 勘が働いたって、一銭にもならないのよ!
 私は再び内心で罵声を浴びせ、顔だけはニコニコしていた。キャバ嬢、風俗嬢というキャリアを踏めば、それくらい朝飯前だ。
 ……だが、時を自由に進められる時計が実際に存在するのだ、呪いが存在したとしてもおかしくはない。本当に呪われているのだろうか。だからこそ、あの少年は時計を手放したのだろうか。……そんなはずがない。呪いなんて存在するはずがないのだ。 
 呪い、その存在を一瞬でも肯定してしまった私は、私自身に対し猛烈に腹が立ってきた。そしてその苛立ちは、私からお面をはがし取った。
「呪いなんてバカじゃないの? 四の五の言わずに、私の言うとおりにすればいいのよ!」
 これ以上理不尽にキレられても困る、そう思ったのか、トシは黙って時計を受け取った。
「いい、壁の時計を見て。今は十一時十五分ね? 時計くらい、いくらバカでも読めるでしょ? あんたが今手にしている懐中時計の針が、十一時半をさすまでリューズを回すのよ。分かったらさっさと回して!」
 トシは嫌々ながらもリューズを回し始めた。