ガチャリ、という音が室内に鳴り響いたのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。
「お前、まだ休んでいるんか? いつから働くんだよ」
自分は働きもしないで一日中ぶらぶらしているくせに人を働き蜂みたいに……いつからお前は女王蜂になったのよ!
心の中で罵声を浴びせ、表面では笑顔を浮かべた。
「おかえりなさい、トシ。言ったでしょ、ロングバケーションだ、って。そんなことより、こっちに来て座って」
いつにない穏やかな口調に、トシは怪訝な表情を浮かべた。それは効果的に作用したのだろう、何だよ、そう言いながらもトシは、私の指差した先に座った。ただならぬ気配を感じ取ったのだろう。
「ねぇっ、ちょっとこれを持って」
トシは懐中時計を見るなり、警戒心を高めた。



