何度も鳴澤の携帯を鳴らしたが、男は出なかった。私の前には空き缶の山と、祝杯ように用意した二十五年もののワインの空き瓶が転がっていた。二十五年前、私と共に産まれたワイン。新たな人生の始まりを祝うために、それを選んだのだ。
「何なのよもう! いまさらになって十億にびびったのね! 情けない男! 他の交渉相手を探すわよ! これが最後のチャンスだからね!」
これが最後、そう自分に言い聞かせリダイヤルボタンを押した。
「もしもし? あぁっ君か。悪いね、イベントが予想以上に盛り上がってしまって」
男は電話に出た。だがその妙なまでの落ち着きぶりに、私の不安は募るばかりだった。
「それはよかったわ。で、どう? 凄いでしょ? 私の言っていたことは嘘じゃなかったでしょ?」
ふーっ、男の溜息が耳をくすぐった。



