Time is gone

「はぁっ? もう日をまたいだから、日曜だろ」
 トシの表情は、嘘を付いているとは思えなかった。そんな嘘を付く必要もない。
 私は、夢遊病にでもなってしまったの……。
 そのとき再び少年の顔が浮かんだ。そしてその声が頭の中に響いた。
 きっとお姉さんの役に立つので。
 まさか、あの時計が原因……。
「あんた時計! 壁の時計じゃなくって懐中時計よ! どこ!」
「何だよ今度は時計時計って……そんなもん知らねぇよ!」
 本当に役に立たない男! 
 私は内心でそう呟き、脳裏に浮かんだ光景から、懐中時計の在りかを探った。そして黒のバックに仕舞っている光景を思い出した。
 私は寝室へと向かい、長年愛用していたシャネルのバックをあさった。やはり時計は、そこに仕舞われていた。
「あの光景は夢じゃないのね。そして今も、夢じゃないのね。どうしちゃたのよ陽子? トシの言うように、本当にいかれちゃったの? それともこの時計、これが原因なの? 何なのよもう!」
 取り乱す私の脳裏に、再び少年の声が響いた。
 きっと役に立つので。