Time is gone

　パチン、という快活のいい音が響き、次に男の怒声が響いた。
「何すんだよいきなり！」
「夢から覚めようと思って」
「はぁっ？　何言ってんだよ！　いつまでも寝惚けてんなよ！　目を覚ましたいなら、自分の頬を叩け！」
　やっぱり人の頬では駄目か……仕方ない。
　私は自らの頬をつねった。長い付け爪が頬に食い込み、その痛みに、ヒャッ、という短い叫び声を上げてしまった。
「何やってんだよ今度は！　頭がいかれたか？　まったくいい加減に……」
　トシが騒いでいる。頬が痛む。ジンジン痛む。痛む頬を指先で優しくなでると、そこには爪後ができていた。
「夢にしては、リアル過ぎない？　この爪後も、鈍い痛みも。……まさか、これは本当に夢じゃないの？　本当にバックを買いに行き、ホットケーキを食べ、しつこい男にナンパされたの？」
　だからそう言ってんだろ！　私の呟きに、トシは苛立たしげに怒鳴った。
　私は恐る恐る、口を開いた。
「……トシ、今日は何曜日？」