Time is gone

「寝言? 何て言ってた?」
「今日買ってきたシャネルのバックのことと、しつこいナンパ男の話だよ」
「シャネルのバック? しつこいナンパ男? それは夢で見た光景よ。夢を見ながら夢の内容を喋れるわけないわよね? ……分かったわ! これも夢なのね! さっきの光景は夢の中で見た夢ね。夢の中で夢を見ることなんてあるのね」
 私の素っ頓狂な解説を聞き、男はさらに大きな笑い声を上げた。
「何言ってんだよお前、まだ寝惚けてんのか」
「夢の中でも腹立たしい男ね。夢なんだから殺してやろうかしら。台所から包丁を持ってきて一思いにブスッ、と。いいアイデアね。日頃の憂さ晴らしをさせていただこうじゃない」
 そう呟いた私は、立ち上がり台所に向かおうとした。そのとき、私の足に何かがぶつかった。
「あら、欲しかったシャネルのバック」
「おいっ、お前本当に大丈夫か? 寝惚けていると思ったら、今度は一人でブツブツとさ……クックックッ、マジ腹いてー」
「本当に腹が立つ男。あんたの相手なんかしてられないのよ! 私は早く起きて、バックを買いに行かなきゃ。そうなれば、こんなくだらない夢とはおさらばよ」
 私は思い切り右手を上げ、なおも笑い続ける男の頬を目指し、振り下ろした。夢だと分かっていても、自分は痛い思いをしたくない。