机の上には三本の空き缶が転がっていた。通常であれば、すでに泥酔している量だ。だがその日は、そうはならなかった。新たな一本を手に取り、口に含んだ瞬間、それは突然込み上げてきた。
僕は、声を殺して泣いた。
「何の、味も素っ気も、ない、人生だった。このまま、終わっちまうのか? でも、これからだって、何もない」
僕は床から薬局の袋を取り上げた。三個入りの内、一つだけ使用されたコンドーム。残りの二つを手にした瞬間、エリカと名乗る女の温もりが蘇り、僕の全身を包んだ。
温かかった。正直、セックス何て大したことはなかった。ガッカリさえした。童貞を捨てたからといって、何も変わらなかった。見上げた空の暗さも、肌を刺すビル風の冷たさも、コンクリートを踏みしめる感触も、電車の乗り心地も、何も変わらなかった。
だがあの優しい温もりだけが、僕の心の中に残っていた。それは、命の温かさだった。
もう、何の未練もないはずだった。最後の未練を断ち切るために、大人の男になったのだ。だがその未練を断ち切ったことにより、新たな未練が生じてしまった。
僕は、声を殺して泣いた。
「何の、味も素っ気も、ない、人生だった。このまま、終わっちまうのか? でも、これからだって、何もない」
僕は床から薬局の袋を取り上げた。三個入りの内、一つだけ使用されたコンドーム。残りの二つを手にした瞬間、エリカと名乗る女の温もりが蘇り、僕の全身を包んだ。
温かかった。正直、セックス何て大したことはなかった。ガッカリさえした。童貞を捨てたからといって、何も変わらなかった。見上げた空の暗さも、肌を刺すビル風の冷たさも、コンクリートを踏みしめる感触も、電車の乗り心地も、何も変わらなかった。
だがあの優しい温もりだけが、僕の心の中に残っていた。それは、命の温かさだった。
もう、何の未練もないはずだった。最後の未練を断ち切るために、大人の男になったのだ。だがその未練を断ち切ったことにより、新たな未練が生じてしまった。



