Time is gone

「ごめんね、ここは本番禁止なの」
 女の指の先には、〈本番禁止! 罰金五十万〉と書かれた張り紙があった。
「分かっています! でも、どうしてもお願いします。それに……」
 僕は薬局の袋を取り寄せ、中から一つの箱を取り出した。
「ゴムなら、あります」
 女は始めて笑顔を崩した。
「用意がいいのね。でもルールがあるの。分かるでしょ?」
「お願いします! ……僕、今日、大学の合格発表だったんです。それで……無理は承知です!  でも、どうしても大人になりたいんです」
 僕の真剣な表情に、女は暫く黙り込んだ。
「ただとは言いません。お姉さんに、これをあげます。僕には、もう必要ないから……。きっと、お姉さんの役に立つので」
 僕はズボンを引き寄せ、ポケットの中身を差し出した。
「これが私の役に?」
 女は不思議そうにそれを眺めた。
「絶対に役に立ちます。それに……じいちゃんが純金性だって言ってたから、それだけでも十分価値があると思います。だから、お願いします」
 純金、その響きにより女の目は輝いた。
「うーん、絶対に内緒だよ? ばれたら私が首になっちゃう。大学残念でしたってことで、一回だけね?」
 僕は頭をベッドに擦り付け、ありがとうございます、そう繰り返した。