Time is gone

「釣れますか?」
 僕は足を止め、近くにいた老人に尋ねた。
「いえ、さっぱりです」
 振り返り、老人は穏やかな声で答えた。誰も獲物など狙っていない。
 何が楽しんですか……、僕の問いに対し、老人は表情を曇らせた。
「何が楽しくて、生きているんですか」
 老人は黙ったまま、視線を水面に戻した。
「真剣に聞いているんです。教えてください」
 老人は再度振り返り、憐れむような目を向けた。
「ばあさんと旅行に行ったり、孫の顔を見ることだよ」
 僕は何も言わずにその場を後にした。