Time is gone

「……じいちゃん、僕、落ちちゃった」
 祖父は笑うのを止めた。だが、顔は笑顔のままだった。そして笑ったまま死んでしまったかのように、表情を変えなかった。
「受験、失敗しちゃった。掲示板にね、僕の番号はなかったんだ」
 僕は自嘲の笑みを浮かべていた。祖父は生きていた。やっと顔の筋肉を動かすことに成功し、真顔に戻った。
「一昨年の冬か。僕が塾をさぼっていることがばれて、大喧嘩になったじゃん? あのとき、すぐに結果は分かる、って言ったの、覚えてる? 僕はこの時計の力を使って、試験日当日まで時間を早送りしたんだ」
 祖父は憐れむような目で僕を見つめた。きっと受験に失敗したショックで、頭が狂ったと思われているのだ。
「この時計の力があったからさ、死ぬほど勉強できたんだよ。そうじゃなかったら、とっくに途中で諦めていたよ。自分で言うのも変だけどさ、僕、本当に、頑張ったんだよ……」
 自然と涙が溢れていた。悔しかった、悲しかった。結果が、ではない。それもあるが、それ以上に、努力が報われなかったことが。時計の力を借りたとはいえ、実際に勉強をし続けてきたのは、他ならぬ僕自身なのだ。