Time is gone

「この時計はね、時を自由に進めることができるんだ。どう、すごいでしょ?」
 それを聞いた祖父は、豪快な笑い声を上げた。そのゲラゲラという笑い声は、僕の中の大切な何かを揺らした。ゲラゲラゲラ、大切なものはそれに併せて、グラグラグラ、と揺れた。
「時を自由に進められるか。お前も、ナンセンシュな冗談を言うようになったな」
 それを言うならナンセンスだよ……、僕はそう訂正した。祖父はその指摘が聞こえなかったのか、再度ゲラゲラと笑った。僕の中の大切な何かが、その揺れに耐えられずに、ガラガラガラ、と崩壊した。
 僕はこの世の中で、一人になった。
「……そっか、そんなバカみたいな話、じいちゃんでも信じてくれないか……」
 でもね、本当なんだ。
 そう呟いた声は、僕の耳にも響かなかったのだから、祖父の耳に届くはずもなかった。だからこそ、祖父は笑い続けていたのだろう。もしその呟きが届いていれば、祖父は今度こそ信じてくれただろうか……。
 世界が急速に色を失っていく。それに併せて、全てがどうでもよくなっていく。祖父の笑い声が遠のいて行く。僕は別世界にいる。祖父の笑い声は、パラレルワールドで響いている。僕は祖父を僕のいる世界に引き摺りこもうと、口を開いた。